Custom Heritage 92 始まりにして完成形──カスタムヘリテイジ92


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カスタムヘリテイジ92の立ち位置

理想の万年筆を求めて何年かウロウロ徘徊してきた結果、私が至った結論は「実用性だけを求めるなら国産エントリーモデル金ペン」で充分であるということです。国産エントリーモデルとは、ここではプラチナの#3776センチュリー、パイロットのカスタム74、セーラーの(現行モデルだと)プロフィットライトを指します。

今回語っていくカスタムヘリテイジ92は、カスタム74の派生モデルであり、私の中ではエントリーモデルの中に含まれているという認識です。このブログで取りあげる万年筆の1本目にこの万年筆を選んだのも、そこら辺が理由です。

カスタムヘリテイジ92はカスタム74の弟分であるカスタムヘリテイジ91のピストンフィラーバージョンで、2023年1月現在の定価は税抜15000円。ニブは5号サイズ。価格的にもニブの大きさ的にも、エントリーモデルに位置付けられると思います。しかしエントリーモデルと侮るなかれ。カスタムヘリテイジ92は非常に素晴らしい万年筆で、原初にして至高なのです。

 

見た目について

カスタムヘリテイジ92にはカラーバリエーションが3通りあり、現在はノンカラー、透明ブラック、透明ブルーの3色です。ヘリテイジシリーズですので、全て銀トリムです。字幅バリエーションはF、FM、M。(ノンカラーのみBもあり)私が所有するのはこのうちノンカラーのF字です。

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ノンカラーと言いつつも、実際には完全な無色透明ではありません。天冠や尻軸はパイロットの言葉を借りるなら透明ブラック色ですし、インナーキャップも半透明ではあるものの、黒が入っています。これはインク汚れが目立たないようにという配慮でしょうが、好き嫌いが分かれるところだと思います。

個人的には黒インクを入れる用としてこの万年筆を使っているので気になりませんが、カラフルなインクを入れる目的で使っている人からすれば微妙でしょう。気密性には何ら影響しませんし、ここら辺は完全に見た目の好き嫌いの問題です。人によっては寧ろスモークがかっていたほうがありがたいという方もいるかもしれません。実際、私は黒インクで汚しまくるのでこの黒いインナーキャップに助けられています。

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天冠部分は内部に透明な玉のようなものが見えます。カスタムNSも天冠部分に青い丸が付いていますし、パイロットはこのデザインが好きなのかもしれません。ベスト型の万年筆は天冠部分にブランドロゴなどが付くことが多く、何も無いと寂しく見えるので、これはこれで良いと思います。パイロットには錨マークやペリカンモンブランスターの様なひと目で判る代名詞的なものがありませんので、その代わりなのかもしれません。(昔のパイロット万年筆に使われていたマークよりかは遥かにオシャレだと思います)

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胴軸はこんな感じ。インク残量は一目瞭然です。私の場合は黒インクを入れているのでアレですが、インク好きな方ならカラフルなインクを入れて色を楽しむのも良いですね。…というか大半の人はその目的で透明軸を選ぶと思います。黒インクは黒インクで、モノクロな感じで格好良いと思うのですが。ピストンが丸見えなので、吸入時に機構を眺める楽しみもあります。
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クリップの形状はカスタムヘリテイジシリーズ共通のものです。シンプルですが、格好良いですね。f:id:Lusankya:20230112194136j:image

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リングには「CUSTOM HERITAGE 92」と「PILOT JAPAN」の文字が彫ってあります。墨入れはされていません。

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ピストンはプラスチックですが、一部金属部品も使われている様に見えます。機構は一般的なピストン吸入式です。何ら支障なく、スムーズに動きます。カタログスペックでは1.2ccのインクが入るそうです。通常の使用に於いては充分なインク容量です。
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ニブは14K5号サイズニブのロジウムメッキ仕上げ。植物?の様な模様で装飾されておりオシャレです。サイズはこの価格帯の国産万年筆としては標準的。パイロットの5号サイズニブは様々な万年筆に搭載されていますが、書き味は素晴らしく、これに関して不満が上がることは基本的に無いと思います。高級万年筆にも引けを取らない良さがあります。書き味に関しては後ほど詳しく見ていきます。

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比べてみる

このブログの最大の目的は購入時の参考にしてもらうことですので、購入するに当たってライバルになりそうな万年筆と比べてみましょう。エントリーモデルの人気のある金ペンといえば、センチュリーですね。同じくエントリー価格帯の有名万年筆で、透明軸であるプラチナ#3776センチュリー忍野と比較してみます。

ある程度の万年筆オタクならパイロットの5号ニブ搭載モデルもセンチュリーもどちらも買わずにはいられない有名所ですから、どちらも持っていない初心者の方がどちらを買うか迷っている…という想定で比べてみます。

ベスト型とバランス型という違いはありますが、キャップを締めた状態だとほぼほぼ同じ長さです。カスタムヘリテイジ92の方が3mm程短いですが、これくらいなら有意な差は感じられないでしょう。

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機構はピストン吸入式のカスタムヘリテイジ92に対して、センチュリーは両用式。どちらが優れているというものではありませんが、一般的にはピストン吸入式の方が値段が高く、インク容量が多く、(万年筆オタクの感性としては)味があって乙です。価格は2023年1月現在でカスタムヘリテイジ92の税抜15000円に対し、センチュリーの通常モデルは税抜20000円。ロジウムメッキのモデルだと更にもう少し高くなります。(ちなみに忍野の場合、特殊なモデル扱いなので税込で30000円程です)

かつてセンチュリーは1万円で買えたので、調べてみると予想以上に値上がりしていて驚きました。これに関してはセンチュリーが値上がりしたというよりも、カスタムヘリテイジ92が値上がりしていないだけとも言えます。

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重さはカスタムヘリテイジ92が17g、センチュリーが21g。カスタムヘリテイジ92は胴軸径が1mm程度小さいんですよね。センチュリーは全体的にがっしりしてるし、キャップがスリップシール機構のせいかヤケに重たいのです。カスタムヘリテイジ92はピストン機構が付いてはいますが、プラスチックなのでそこまで重量に影響しないのかもしれません。

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ニブの大きさはかなり違いがあります。カスタムヘリテイジ92の方が小さいのが分かります。センチュリーのニブはパイロットの10号ニブくらいの大きさですね。どちらも14Kニブです。
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比較してみての結論としては、ピストン吸入式が売りのカスタムヘリテイジ92と、大きなニブが売りのセンチュリーという感じ。どちらもコストパフォーマンスは高いので、ピストン吸入式に魅力を感じるかどうかが争点となりそうです。書き味に関してはどちらも個性があるので、これも個人の好みの範疇でしょう。

共に大好きな万年筆なので私には甲乙付けがたいですが、値段を踏まえるとセンチュリーが値上がりしていてカスタムヘリテイジ92がまだ耐えている現状としては、カスタムヘリテイジ92が若干優勢の様に個人的には思います。(しかし万年筆は趣味のものですから、コスパなんて気にせずに好きなものを買うべきです)

 

実際に書いてみる

万年筆の書き味はインクと紙に大きく影響されるものですし、個体差もありますので最も語ることが難しい部分です。個人の主観を通してしか伝えられないものなので、人によって言っていることが違うことも多々あります。ですから、もうここから先は私個人の一意見に過ぎません。しかしそんなことを言っていてはもはやこのブログの存在意義が無くなってしまうので、私の感想を述べていきます。

私は普段、この万年筆にパイロット純正黒インクを入れ、キャップポストをし、首軸の辺りを持ってコクヨの「しっかり書けるルーズリーフ」に文字を書いておりますので、同じ環境を再現します。7mmのA罫で、B5です。
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そして実際に書いてみたのがこんな感じ。字が汚いのはお許し下さい。

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パイロットの5号ニブは比較的小さいのもあって、ニブ全体がしなることはありません。しかしその分スリットがかなり敏感に筆圧に応じて開き、筆圧を吸収してくれるので柔らかい書き心地です。字の太さも思い通りに変えられますし、トメハネハライも簡単に表現出来ます。Fだと若干カリカリしますが、一般的な紙に書く分には適度な摩擦感です。ただしざらざらした紙だと少し気になります。Mだとカリカリ感は無くなりますが、ペンポイントが大きくなるせいか少し紙へのタッチが固くなる様な気がします。好みの問題ですが、私はFの方が柔らかくて好きです。

何にせよ、パイロットの5号ニブは非常に素晴らしく、特に不満点は挙げられません。万年筆ニブの1つの完成形がパイロット5号ニブだと私は思っています。柔らかい書き心地は病みつきになりそうです。インクフローも良く、淀みなく適度なインク量が供給されます。ニブは大きければ良いというものではないということを証明してくれる存在です。

この万年筆はニブだけでなく筆記時のバランスも最適で、インクを入れた状態でキャップポストすると20g弱になります。万年筆の理想の重さは20gだと私は考えていますので、カスタムヘリテイジ92も理想的な重さだと思っています。重量が偏っているわけでもないので、バランス配分も問題なく、書きづらさを感じることもありません。

この万年筆の最大の弱点は、万年筆そのものよりもインクかもしれません。この万年筆というか、パイロットのインクに共通する問題ですね。パイロットのインクは滲みやすいので、紙を選びます。コピー用紙なんかだと滲むし裏抜けするしで使い物にならないので、紙に気を配る必要があるのが唯一の難点です。

 

総評

税抜15000円でピストン吸入式の金ペンが買える!それも信頼と安心のパイロットクオリティーで、安くて高品質!ニブの書き味も良いし、最近流行りの透明軸!こんなに優秀な万年筆が存在して良いのだろうか?!流石は世界のパイロット!!