雑記 キャップリングの位置から見るデザイン思想の変遷。そして国産万年筆の保守性。

万年筆のデザインについて、少し気付いたことがあります。それは、デザインという点に於いてキャップリングの位置が万年筆の印象を大きく左右するということです。普段あまり気にしない部分ですが、キャップリングの位置には明確に時代ごとの傾向がある様に思われます。(もしかしたら皆様周知の事実かもしれませんが、私は今気付きました)

気付いたきっかけはConklinのDuragraphです。私はこのペンのキャップのデザインにずっと違和感を感じていたのですが、その理由を上手く言語化出来ませんでした。それに今更ながら結論が出たのです。即ち、Duragraphはキャップリングが非常に細いのですが、これがキャップの端からかなり離れた部分にあるのが違和感の正体でした。キャップの端からキャップリングまでの部分があまりにも長過ぎるのです。

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↑ConklinのDuragraph。元々は1923年に発売されたものの復刻版。キャップリングが細く、かなり内側にある。

 

それに伴い、比較的新しくデザインされた万年筆は大抵キャップリングがキャップの一番端に存在することにも気付きました。現行モデルに限るなら例えば、Twsbiは全てそうだし、ParkerはDuofold以外の全て、PelikanはM101N以外のスーベレーン及びクラシックシリーズの全て、Watermanも全てそうです。

Duofoldは昔からのデザインを踏襲しているし、M101Nは古いモデルの復刻版ですから、どちらも「キャップリングの位置とデザイン思想の新旧には相関性がある」という仮説を後押しする良い例になると私は考えています。

では、逆にキャップリングがキャップの端から離れた場所にある万年筆の多いブランドを挙げていきましょう。先ずはモンブランモンブランはマイスターシュテュック146や149などが代表的なペンですが、どちらもキャップリングがキャップ内側に存在しています。マイスターシュテュックシリーズはかなり古くからあるモデルですので然もありなん。

反してスターウォーカーや限定モデルなどの新しいモデルは、マイスターシュテュックをベースとしない限り基本的にはキャップ端にキャップリングがあります。また、廃盤でも#12や#22の様な万年筆は50年代や60年代のものですがキャップ端にあるので、モンブランはこの頃には既にキャップ端にリングを置く設計思想に移っていたと考えられます。

ちなみに先程のParkerだとParker 51の頃には既にキャップ端にリングがあるので遅くとも1940年頃にはそうなっていたと考えられます。

そして問題は国産三社。パイロットもプラチナもセーラーも、キャップリングが端にないモデルの多いこと多いこと。これはモンブランのマイスターシュテュックにデザインの影響を受けているのが要因でしょうが、それにしても未だにこの三社はこのデザインが主流ですから海外メーカーと比べるとデザインがかなり古い。海外メーカーだと1900年代中頃辺りから廃れていったデザインが、国産メーカーでは未だに現役なのです。

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↑国産三社の一般的なモデル。何れもキャップリングがキャップ端にはないことが分かる。

 

パイロットの場合、ショート万年筆であるエリートシリーズなどはキャップ端にキャップリングがありますが、主流となるシリーズはずっとキャップ内側にありますね。PILOT 65、PILOT 67、PILOT 70、カスタムシリーズ(初期のものを除く)など。カスタムシリーズの初期のものはインレイニブを採用していましたがこれはキャップリングが外側にありますから、翻って、インレイニブでないモデルについてはずっと同じデザイン構文を適用してきたのでしょう。

私の知る限りこれに新しい風が入ってくるのはカスタムレガンスの二代目から。2007年くらいかな。カスタムヘリテイジ91が2009年でそれに続きますが、これはキャップリングが内側にある古いデザイン傾向の系譜上にあります。(ヘリテイジシリーズは若者をターゲットにしていたので、目的を考えれば本来はキャップリングを外側にすべきだったのかもしれません)

ちなみに2011年発売のカスタム一位の木、2013年発売のカスタム槐、2019年発売のカスタムNS、2021年発売のカスタムSEなど最近発売の万年筆は(伝統的な漆塗りシリーズを除いて)殆ど新しいデザイン思想が採用されており、今ではキャップリングがキャップ端にあるデザインに置き換わりつつあります。海外から後れること半世紀、パイロットはようやく新しいデザイン構文を採用するに至ったわけです。

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パイロットの革命児?

 

ではプラチナ万年筆はどうでしょうか。こちらは基本となる#3776シリーズはキャップリングが内側にあります。現行のセンチュリーは2011年発売。しかし2010年発売のプレジールは外側にあり、この辺りが過渡期だったと思われます。2018年発売のプロシオンなど、新しい万年筆はもうキャップリングが外側にあるのが当たり前になっていますので、プラチナもパイロットと同時期に新しいデザインの価値観を受け入れたということなのかもしれません。

最後にセーラー。セーラーは国産三社の中でも特に頑固で、デザインが古めかしいことで知られます。しかしそんな頑固セーラーでも、ここ数年はかなりデザインが新しくなりつつあります。2003年発売のキングプロフィットやプロフェッショナルギアはキャップリングが内側ですが、その数年後に発売されたプロフェッショナルギアKOPはキャップリングが太くキャップ端にあります。(あれ?もしかしてセーラーが一番先進的だった?)

以上の様に、キャップリングの位置という1つの物差しで見ていきましたが、国産万年筆メーカーは何れもデザインが海外に比べ保守的であり、10年ほど前からようやく変わり始めたという時代の流れが垣間見えました。

以前から国産万年筆メーカーはデザインが古いとかダサいとか散々言われ続けていたわけですが、それもあながち間違いではなく、キャップリングの位置という基準だけで語るなら(辛辣な言い方をすると)半世紀近く世界から取り残された骨董品だったわけです。10年ほど前からこの流れが変わり始めたのも、国産各社の危機感の表れでしょう。腰が重過ぎるよ...

これはあくまで私見ですので、別の尺度で測ればまた違った景色が見えるのかもしれません。しかしながら少なくとも私の目にはこれが日本社会の停滞を象徴する様にも思え、哀しくなります。

一応国産メーカーを弁護するために言っておくと、イタリアなんかも割とデザインが古めかしい傾向にありますね。(それでも日本よりかは先進的ですが...)

 

要するに

少々辛口になってしまいましたが、決して国産メーカーを貶したいわけではありません。個人的に国産メーカーに最も足りないのはデザインであり、逆に最大の強みは書き味と品質だと思っています。つまりデザインが垢抜ければ海外万年筆なぞには引けを取らないだけのポテンシャルがあるのです。今国産メーカーは変わりつつある途上。是非とも現状に胡座をかかず、デザインを洗練させていって欲しいと思います。

若造の過ぎたる意見としては以上です。ご清聴ありがとうございましたm(_ _)m