Duragraph 蘇ったConklin──デュラグラフ

f:id:Lusankya:20230209222439j:image

デュラグラフの立ち位置

Conklin ──コンクリン。1898年創業。アメリカの万年筆ブランドです。(ちなみにウォーターマンは1883年)かつてはアメリカでも数本の指に入る主要な万年筆メーカーの1つでしたが、1950年代に倒産してしまいました。

それがここ最近になって復活したのが、新生コンクリンです。(最近と言いつつも、新生コンクリンとしては20年くらいの歴史があります。日本語公式サイトなどではこの辺りの事情が説明されておらず、120年間続いていたかの様な書き方がされてるので誤解を招きやすいです)今回はその新生コンクリンの万年筆である、デュラグラフについて語っていきたいと思います。

元々は1923年に発売された本家デュラグラフ。その復刻版がこの万年筆です。コンクリンといえば風変わりな吸入方式が有名ですが、こちらは両用式です。新生コンクリンの現行ラインナップは何れも復刻版であったり過去のペンを踏襲したものとなっており、両用式からクレセントフィラーまで、低価格帯を中心に展開しています。

正規輸入代理店のサイトから引用すると

Durable(永続性)とgraph(図表)から組み合わせたネーミングと共に1923年に発表されたデュラグラフ・コレクションが厳選されたこだわりのクラシックな色目の素材と共に甦ります。当時を彷彿とさせてくれる、存在感あるボディーは心地よい書き味を約束してくれます。

とのこと。

このペンの凄さはそのお安さにあります。お値段ですが、私がアメリAmazonで購入した際は50$もしなかったはずです。国内でも7000円から1万円台前半程度で売られている様です。正規輸入代理店だとFニブのみで国内定価は税抜12000円。カラーバリエーションはクラックアイス、フォレストグリーン、アンバー、アイスブルー、オレンジナイト、レッドナイト、パープルナイトの七色展開。

安価でありながら中々に綺麗な見た目の万年筆が手に入るというのがこのペンの最大のセールスポイントであり、それでいてスペック上何かが犠牲になっているということもありません。充分過ぎる大きなペン本体に、キャップを外した状態でも充分な重量、(キャップをしなければ)適切なバランス、平凡ながらも必要充分なニブ、分厚い胴軸...特別光る部分があるわけではないものの、全てが平均レベル以上に纏まっており、特にこれといった不満点が存在しません。値段を考えれば驚異的であるとすら言えます。

こんなに凄いのに、日本ではあまり存在感が無い...そんなコンクリンのデュラグラフ、詳しく見ていきましょう。

 

見た目について

私が所有するのはデュラグラフの中でもForest greenという色のもの。イメージとしては、恐竜が潜んでいそうなシダ植物の大森林という感じ。Jurassic greenに改名した方が個人的にはしっくりきます。目に優しい色でありながら、光を反射して綺麗に光ります。このペン、細部を見れば多少の荒はありますがこれだけでも値段以上と言ってしまって良いでしょう。普段の落ち着いた緑色も良いですが、光が当たった時のこの輝きも素晴らしい。

f:id:Lusankya:20230209222509j:image

樹脂軸は綺麗であって欲しいものではありますが、いつもきらきらと輝いていれば良いというものでもないと私は常々思います。常に手元が輝いていては、書き物をする時にペンが意識に入ってきてしまいます。

無論趣味として使う分にはそれでも良いのかもしれませんが、あくまで実用品と見なすなら普段はそっと傍に控えていて欲しいのです。それでいて、ふと疲れた時に光にかざすと輝いてくれる...このメリハリが大事です。普段は地味でも良いから、ここぞという時に輝けばそれで良いのです。私はこの緑色が何とも乙に感じられます。平安貴族風に言うなら、いとあはれ。クラスの地味な女の子が、休日に見かけると私服で凄く可愛かった...みたいな感じ。

ちなみにドルチェビータの様な綺麗な万年筆と隣り合うようにペンケースに入れておくと、お互いがお互いを引き立てあう様に思われ、個人的にオススメです。

濃い緑色も相まって概観としては非常にレトロな雰囲気が漂っています。実際に百年前の万年筆のデザインを踏襲しているのでレトロで当たり前なのですが、具体的にどの辺りがレトロなのかと問われると難しいですね。

思い付く限りを挙げてみると、1つ目はクリップ。根本から先端に行くにつれ細くなり、最後は丸みを帯びた形状になっています。これはパイロットのカスタムシリーズの雨垂れクリップに少し似ていますね。最近の主流はそのままの太さのクリップを真っ直ぐに下ろしてくるか、適度な曲線を作るかのどちらかであると私は思っているので、これはレトロポイントその1ですね。


f:id:Lusankya:20230209222707j:image

2つ目はキャップリング。細い。私が今まで見てきた中で一番細いかもしれない。この細さが、古のキャップリングの太さでペンの高級さを区別していた時代の名残を感じさせるのです。

そしてこのキャップリングの位置もデザインの印象上重要な意味があります。詳しくは以下の記事をご覧いただきたいのですが、ここで簡潔に纏めるなら、キャップリングの位置がキャップ端よりも内側になっているのがレトロさを感じさせるポイントです。

 

kaerupyon.hatenadiary.com

 

そして3つ目に、全体的なフォルム。デュラグラフのキャップや胴軸は、何れも太さがあまり変化せず、棒の様になっています。 デザイン重視の洒落乙な万年筆ならば兎も角も、一般的な万年筆ではこの様な真っ直ぐな軸を持つことは少ないです。バランス型とかベスト型とか言われているものも、どちらも軸中央が太く端に行くにつれ細くなるという基本は変わりません。それに現代ではこういう棒の様な形にする場合は細いのが一般的ですが、こいつは太い...この点もまだデザインが成熟しきっていない時代の雰囲気を感じさせます。

ニブはステンレスですが、穂先が長いのもあって鉄ペンとしては柔らかい部類ではないかと思われます。もしかしたら、この大きな三日月型ハート穴も関係しているかもしれませんね。ニブにはConklin,TOLEDO,U.S.A.と刻印されています。

f:id:Lusankya:20230211205857j:image

字幅はニブ側方に記載されており、このペンの場合はFです。

f:id:Lusankya:20230211210415j:image

ペン芯は波々としたちょっと複雑な形状をしています。このペン芯、モンテベルデと同じものです。コンクリンとモンテベルデは親会社が同じ(Yafa pen company)なので、グループ内でニブとペン芯を共通化してコスト削減している模様です。

ちなみにYafaはコンクリンやモンテベルデの他、マーレン、マイオーラ、ピナイダー、スティピュラ、ディプロマット、ネットゥーノなどのブランドも従えている様です。更に、万年筆ヲタクならみんな知ってる「シュミット」もYafaの傘下。

f:id:Lusankya:20230211210625j:image

このペン芯──もしかしたらニブの個体差かもしれませんが──表面張力高めのもちもちしたインクと相性が良くありません。購入時に付いてきたインクカートリッジだとインクフローが渋くて渋くて…その後ペリカンのインクを入れてみるもそれも渋くて…結局パーカーのブルーブラックに落ち着きました。

パーカーやパイロットの様なさらさら系のインクでないと、中々インクが出てきてくれません。(逆に言うと、さらさら系インクなら問題ないです)

天冠は黒い樹脂製でまっ平ら。Conklin Est.1898の文字が白文字で書かれており、中々のお洒落ポイント。ただしこの文字、おそらく摩擦に弱いと思われるので出来るだけ擦らないようにしませう──と言いつつ、この部分の手触りがすべすべしていて気持ち好く、ついつい撫でてしまいます。

そしてお次は細~いキャップリング。金属製の細いリングが樹脂と樹脂の間に嵌め込まれているのですが、これもこのペンをこのペンたらしめる部分ですね。写真だと判りづらいですが、少しだけぷっくりと膨らんでいます。レーザー彫刻でConklinの文字。

その裏には三日月マークに囲まれる形でDuragraphとあります。

比べてみる

この万年筆の比較対象って、非常に難しいです。低価格で綺麗な樹脂軸が楽しめる万年筆という特徴を鑑みると、私の足りぬ了見では中華万年筆くらいしか候補に上がりません。(でも私は中華萬は買わない主義なので…)

仕方ないので、このブログ本来の趣旨とは逸れますが同じグループ企業であるモンテベルデの万年筆と比較します。モンテベルデのレガッタです。

長さは大体同じくらい。デュラグラフが全長139mm、レガッタが141mm。重さは真鍮ベースのレガッタが圧倒的に重いですが。


f:id:Lusankya:20230217141325j:image

どちらも万年筆としては中々キワモノなので、比べようにも何も比べられないですね...共にオンリーワンな見た目をしています。

f:id:Lusankya:20230217142014j:image

ベースとなるニブの形状は同じ。Jowoですね。


f:id:Lusankya:20230217142220j:image

ペン芯も同一ですね。


f:id:Lusankya:20230217142327j:image

この二つの万年筆、ニブもペン芯も同じなのだから書き味も同じであるべきなのですが、万年筆自体の重量や字幅の違いのせいで書いていて受ける印象がかなり異なります。ここが万年筆の面白いところだと言えるかもしれません。

 

実際に書いてみる

前述の通りペリカンの4001シリーズとは相性が悪いので、今回はパーカーのブルーブラックを使用しています。FニブでインクはParkerのQuink ブルーブラック。

ちなみにこのペンはキャップポストしようと思えば出来なくもないですが、尻軸のリング位置の関係上、キャップを深く嵌めることが出来ません。そのためしっかり嵌めても18cm弱の長さになり、恐ろしく扱いづらくなります。よってキャップポストはせずに書くことをオススメします。ちなみにこの状態での重量実測値は付属のコンバーターでインク満タン時で14.5g。比較的軽めです。

ニブは穂先が長いので鉄ペンとしてはよくしなり、柔らかいです。ただし鉄ペンであることには変わりないので、このしなりを体感するにはある程度の筆圧をかけてやる必要があります。インクフローはQuinkを入れている限りは潤沢。海外の鉄ペンとしてはオーソドックスな摩擦感の少ないペンポイントです。適度に柔らかく、適度にインクが出る、万人受けのする、嫌いな人は少なそうな書き味です。筆圧高めの初心者にも勧められ、書き味にうるさい玄人も納得させられる...元は色んな万年筆に搭載するために大量生産している汎用性の高いニブなだけあって、本当に良くできています。

 

総評

百年の時を越え、現代に蘇ったコンクリン万年筆!隠しきれないレトロな匂い!全てが平均点以上に纏まった必要充分な性能!綺麗な軸も楽しめます!!