Custom Legance エレガンスを纏うカスタム──カスタムレガンス

カスタムレガンスの立ち位置

最近では変わりつつありますが、それでもやはり国産万年筆って仏壇軸が多いです。この仏壇軸に対する拘りは何なんだ…?!と思ってしまうくらいに。…別に仏壇軸が悪いとは言いません。仏壇軸もそれ単体で見れば渋くて中々格好良いと私は思っています。でも1本や2本ならまだしも、ペンケースが全部仏壇軸で埋まってしまったとしたら…私は発狂します。再三になりますが、私は仏壇軸が嫌いなわけではありません。それでも同じような色ばっかりだと飽きてしまいます。仏壇軸が悪いのではなく、仏壇軸ばっかりであることが悪いのです。

↑ペンケースが仏壇軸に占拠されるの図

 

↑理想的な配色を保ったペンケースの図

 

それに対して見て下さい、イタリア万年筆を!アウロラは88の様な渋い仏壇軸の万年筆をフラグシップとしつつもオプティマの様に綺麗な万年筆を扱っています。もうちょっと国産万年筆メーカーもあんな感じの綺麗な万年筆を作れないのかな?

そして、私と同じことを考える方は少なくはなかったのでしょう。必要は発明の母と言います。企業としては消費者の声を無視出来なかったのでしょう。我らがパイロットコーポレーションがこの声に応えました。その結果生まれたのが今回語っていく万年筆──カスタムレガンスです。

イタリア製の樹脂軸に、パイロット製の書き味に優れたニブを搭載。国産万年筆の書き味とイタリア万年筆の優美な見た目を兼ね揃えた最強の万年筆!まさに夢のコラボレーション!日伊同盟だ!それでいてお値段は一般的なイタリア万年筆よりもお安いのですから、人気の出ないはずがないですよね。実際人気で、ネットオークションなどでも未だに高めの価格で取引されています。

そんなカスタムレガンスですが、既に廃盤となっております。人気があったのに何故廃盤となったかといいますと、どうやら樹脂軸が入手困難になってしまったからだとか。イタリア製樹脂軸が売りの万年筆だったのに、その樹脂軸が手に入らなくなってしまうなんて…そりゃ仕方ない…惜しまれつつの廃盤となりました。

しかし廃盤となっても需要が高かったのか、その穴埋めとして最近カスタムヘリテイジSEという万年筆が発売されましたね。カスタムレガンスよりも全体的に色が黒っぽく、深みがある感じの見た目です。個人的には格好良さではレガンスを超えたと思っています。

でもでも、後継が誕生してもカスタムレガンスの魅力は色褪せません。そもそもカスタムレガンスに何か問題があってカスタムヘリテイジSEにバトンタッチしたわけではありませんから、レガンスが依然として素晴らしい万年筆であることに変わりはないのです。

前置きはこのくらいにして、そろそろ本題に入っていきましょう。先程からカスタムレガンスカスタムレガンスと連呼していますが、ひとくちにカスタムレガンスといっても、いくつか種類があります。私が把握している限りではニブの大きさで3種類に分けられます。初代は10号ニブ、2代目は5号ニブ、3代目は3号ニブです。(3代目を同じカスタムレガンスと見做すかは意見の分かれるところだとは思います)3代目に関しては先代モデルとは違い「レガンス89s」という風に名前が変わっているから分かりやすいのですが、初代と2代目は全く同じ「カスタムレガンス」という名前だから実に厄介です。同じ名前なのにニブのサイズが違うので、ネットで手に入れる際は間違えないように気を付けた方が良いです。

ちなみに私が所有しているのは2代目の方。海外だとカスタムレガンスIIと呼ばれているものです。カラーバリエーションはブラック、ブラウン、レッド、ブルーの4色で、私のはブラックです。

「折角綺麗な軸が売りの万年筆なのに黒色なんかい!」というツッコミが聴こえてきそうですが、生憎と私は捻くれ人間ですので、敢えてこういうチョイスをしてしまう癖があるのです。それに、黒は黒でもただの黒ではありません。遠目には普通のカスタムヘリテイジと変わらないただの黒い万年筆。でもよくよく見てみれば綺麗な模様が入っている…こういうの、中々乙だとは思いませんか?

 

見た目について

軸はイタリアから輸入したプロピオネート樹脂。光を当てるとこの様に、美しく輝きます。

黒い樹脂ですが、実は薄く透けています。これはキャップ部分の写真ですが、うっすらとインナーキャップが見えます。光を当てないと分からないレベルではありますが。

直接光を当てないとこんな感じ。暖色の照明下ではこれくらいの色味。意外と白色成分が多いですね。

尻軸はこんな感じ。ベスト型ですので平らです。しかし単に平べったいだけではなく、先端の外周部がまーるく削られ、中心部がぽっこり出る形になっています。これはカスタムレガンスだけでなく、パイロットのベスト型万年筆によく見られるデザインです。パイロットのベスト型万年筆の天冠や尻軸は他社のものに比べると角が丸く削られておらず、尖っているものが多いです。そのため、この様な処理をすることで視覚的先細り感(?)を生み出しているものと思われます。

更に述べるなら、天冠や尻軸が胴軸と同じ樹脂素材で構成されているのも嬉しいポイント。他社製品だとコストカットのために天冠や尻軸を共通部品(ノーマルな樹脂素材)で誤魔化すこともありますが、カスタムレガンスはその限りではありません。しっかりと胴軸と天冠、尻軸が同じ素材で作られています。

クリップはヘリテイジシリーズでお馴染みの剣型。ロジウムメッキが涼しげで素敵。中心付近が細くなることでスラッとした視覚的印象を受けます。剣先の部分は丸くなっていますのでParkerの矢羽クリップとは違って指に刺さってアウチになったり、服の生地に刺さって抜けなくなるようなことはありません。

キャップリングはロジウムメッキで、結構太いです。目立った装飾は無くシンプルですが、銀の指輪のような上品さがあります。軸が派手なので、キャップリングはシンプルなデザインで正解かなと思います。もし派手なデザインだったなら、かなり見た目的に煩くなっていたのではなかろうかと思われます。リングの位置はキャップの端っこで、保守的な日本メーカーとしては比較的攻めたデザインです。初代カスタムレガンスはそうではなかったのですが、カスタムレガンスIIからはこの様に現代的なデザインとなっていますね。(カスタムレガンスのキャップの位置とデザインに関しては他記事で触れているので宜しければそちらをご覧下さい)

kaerupyon.hatenadiary.com

 

キャップリングだけで言えば、カスタムレガンスのデザインは後発のカスタムヘリテイジシリーズよりも先進的です。

ニブはお馴染みパイロット5号ニブを搭載。14Kロジウムメッキ。小さくても充分な性能を持つ大変優秀なニブです。改めて初心に立ち返ってこのニブを眺めてみると、小さいながらも万年筆に相応しい美しさを放っていますね。キラキラした軸にも負けない…否、寧ろレガンスに相応しいデザインにも思えます。パイロットの5号ニブは様々な万年筆に搭載されるものなので当然なのかもしれませんが、性能面だけでなくデザイン面でも汎用性が高いですね。

書き味が素晴らしいことに関しては今更言うに及びません。ニブ全体がしなるのではなく、切り割りが開くことによって筆圧を逃す設計となっており、小さいニブでももっちりした柔らかさを感じられる書き味です。切り割り自体が開くので、筆圧に応じて素直に字幅が変化します。それでいてふにゃふにゃしているわけでもないので筆圧の強い方が使用してもペン先が安定し、扱いやすいです。国産としては比較的摩擦少なめのペンポイントは紙の上をスラスラと進み、止まるべきところでしっかりと止まります。全てが高水準で纏まっており、非の打ち所がない優秀なニブです。

天冠も尻軸も胴軸と同じ素材を使っているカスタムレガンスですが、首軸だけはそうではありません。他の仏壇軸モデルと共通の、真っ黒な樹脂です。私が所有しているのは「ブラック」ですので首軸が仏壇樹脂でもそんなに違和感はありませんが、他の「ブルー」や「レッド」の様な明るめの色の場合はちょっと賛否両論になりそう。イタリア万年筆なんかは胴軸と首軸が同じ素材であることが多いですから、パイロットもやろうと思えば出来たはず…と思うのですがどうなのでしょうか。何か已むに已まれぬ技術的事情があったのであれば致し方ないですが、そうでないならここも頑張って欲しかったところ。首軸はカスタムレガンスの数少ないウィークポイントの1つかもしれません。

吸入方式はカートリッジコンバーター両用式です。パイロット社の誇る大容量コンバーター──CON-70──に対応しておりますので、インク容量で不満が溜まることはほぼ無かろうかと思われます。

 

比べてみる

カスタムレガンスは有り体に言ってしまえば「軸の綺麗なカスタムヘリテイジ91」です。ですから比べるとしたら同じくカスタムヘリテイジ91の亜種的位置付けであるカスタムヘリテイジ92が相応しいかなと思います。今回はこの両者を比べてみるとします。

カスタムレガンスがカスタムヘリテイジ91の綺麗軸バージョンと位置付けられるのに対し、カスタムヘリテイジ92はカスタムヘリテイジ91のピストンフィラーバージョンであると言えます。ピストン吸入機構に加えて、軸が透明軸なのも特徴です。お値段は実売価格だと1万ちょっとで、大変お得でオススメの万年筆です。カスタムレガンスが既に廃盤になっているのに対して、こちらは現在も発売中ですので手に入れやすいのもポイント。これは中々の強敵です。

キャップをした状態だと、カスタムレガンスが13.6cm、カスタムヘリテイジ92は13.7cm。ほぼ同じですね。径も両者ともほぼ変わりませんが、カスタムレガンスの方が若干太いかな。太いというよりは、軸が分厚いというイメージです。実際に重さも結構違い、カスタムレガンスが23gくらいあるのに対してカスタムヘリテイジ92が17gくらい。あとは特筆すべきはキャップリング形状の差異くらいでしょうか。

要するに実際に比較するに当たって有意な違いは、見た目と重さとインク吸入方式、あとは値段。この4点くらいです。

ニブも両者とも全く同じものです。5号ニブのロジウムメッキ。

そういうわけで、綺麗軸が欲しい方はカスタムレガンスを、透明軸のピストン式万年筆が欲しい方はカスタムヘリテイジ92を買いましょう!…という分かりきった結論に至りました。なんともつまらぬ。どちらも買って損はない優秀な万年筆ですので、両方買えば良いと私は思いますけどね!

 

実際に書いてみる

私の所有するカスタムレガンスは中字のM。インクはパイロット純正ブラックインク。

総評

仏壇軸はもう飽きた!でも国産万年筆の書き味が好きだ!…そんなあなたにカスタムレガンス!本場おイタリアのお綺麗なお樹脂軸で、これにはイタリア万年筆ヲタクも国産厨もニッコリ!