VAC700R バキュームフィラーな巨大万年筆──バキューム700R

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VAC700Rの立ち位置

TWSBIという会社があります。漢字だと「三文堂」。平仮名にすると、つうぃすびー。台湾のメーカーです。透明軸の吸入式万年筆を低価格で商品展開し、日本の万年筆業界に一陣の風を吹かせた話題のニューウェーブ。今回語っていくのは、そのTWSBIのVAC700Rという万年筆です。

元々TWSBIが国内で有名になったのは「TWSBIのECOっていう万年筆があるんだけど、5000円で買えるのに吸入式なの!!」「すごーい!!」って感じの経緯だったはずです。当時は安価なデモンストレーターモデルが今ほど多くはなかったので、まさにTWSBIは万年筆業界の革命児だったのです。(というか、現在安価なデモンストレーターモデルが沢山存在すること自体がTWSBIの影響なのかもしれません)海外ではどうか知りませんが、少なくとも国内ではそんな感じだったはず。

その様な経緯で認知されたが故か、何故か国内ではVAC700Rの存在感がめちゃくちゃ低いのです。実際にTWSBIの国内販売代理店である株式会社酒井さんのホームページを覗いてみたところ、PRODUCTSのところにECOとDIAMONDは載っているのに、VACは無い…えー…売ってないわけではないけど、存在感が薄い…まるでコンビニの端っこの棚に置いてある羊羹みたいです。

そんなちょっと地味な万年筆であるVAC700R。でも私、小学生の時に友達がみんなポケモンの銀(ソウルシルバー)を買ってたのに、一人だけ金(ハートゴールド)を買ったひねくれ人間です。DIAMONDとVACのどちらを買おうかちょっとだけ悩みましたが、やっぱりVACを買ったのでした。

でもでも地味だけど、だからといって悪い万年筆というわけではありません。バキュームフィラー機構を備えていて、更に巨大な、尖りまくった凄い万年筆なんです。スポーツでも、負けてる方を応援したくなるのが人間の性というもの。この記事では、VAC700Rを応援していこうと思います。

VAC700Rは税抜15000円程度で売られており、ニブはEF~Bに加え、スタブもラインナップされております。

 

見た目について

おそらくVAC700Rを初めて見た人の9割くらいが思うこと。今私が代弁します。「デカ過ぎやろ…!」です。本当に大きいです。大きいことで有名な、かのマイスターシュテュック149とタメを張る大きさです。サイズを測っていきましょう。

数字だけではいまいちピンとこないと思います。折角なので、モンブランの149と比べてみましょう。f:id:Lusankya:20230126210657j:image

149と大体同じ大きさですね。

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流石にニブの大きさでは負けてしまいますが、VACが大きな万年筆であるということは伝わったのではないでしょうか。

胴軸は無色透明です。紫色に見えるのは、私がこの万年筆にペリカンの紫インクを入れているからです。綺麗なインクを入れて眺めたいという方には最適ですね。胴軸はキャップリングの辺りで漏斗状に膨らんでいる様に見えますが、これは軸内の内側がこの様になっているだけであり、実際にユーザーが持つにあたっては持ちづらいといったことはありません。そして更に軸内に注目すると、内部に金属製の棒が入っているのが分かりますね。これがバキュームフィラーの要となる部分です。f:id:Lusankya:20230126210739j:image

クリップは、ほんの少しだけざらつきを感じます。つるつるしているけどすべすべなわけではなく、若干手に引っかかる感じ…不思議な塗装です。摩擦にはあまり強くない様で、表面が少し剥げ始めています。

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この塗装以外には特に特徴も無く、平凡なクリップです。少し固めですが、クリップとしての本来の使途には何ら問題なく使えるでしょう。
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天冠部分は銀色にメッキされており、そこにツイスビーのマークが嵌め込まれています。高級感があるというよりは、格好良いという印象です。ツイスビーのマークは赤地に「文」の字が3つ重なったもの(三文堂に由来)ですが、これは巷でも言われている様にバイオハザードっぽいですね。微生物系の研究室とかのドアに貼ってあってビックリするあのマークにそっくりです。これは中々厨二心をくすぐります。

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尾栓は真上から見ると十角形になっており、摘みやすくなっています。真っ黒なので写真だと分かりづらいですが、個人的には菊の紋章を思い浮かべる形状です。バキュームフィラーはその性質上、インク吸入時だけでなく通常筆記時にも尾栓を緩めたり締めたりすることになりますので、この部分の摘みやすさはかなり重要です。

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先程十角形と言いましたが、斜め上から見るとダイヤモンドカットになっています。尾栓は黒色ですが、実際にはうっすらと透けているので、このダイヤモンドカットが光を反射して、遠くから見ると輝いて見えます。こういった細かい部分にも拘りが感じられ好感が持てますね。


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吸入機構はバキュームフィラー。かなり大雑把に説明すると、尾栓部分を押したり引いたりすることでインクを吸入する方式です。ピストン吸入式は尻軸を回しますが、こちらはその代わりに押し引きするわけです。尾栓の動きに合わせて内部の棒も動き、こいつがシリンダー内外の圧力差を生み出すことでインクを吸入します。詳しいことは分かりませんが、軸内の圧力を下げることでその名の通りインクを「バキューム」します。

でもそれだけでなく、前述の通り尾栓を回すことにより内部の棒の固定を強めたり緩めたりも出来ます。この棒はインクタンクからぺん芯へのインクの流れをせき止める栓の役目も果たしており、尾栓を回すことでインクの供給を調整出来るのですね。この辺りはインクどめ式と同じです。言葉で説明するとこの様に小難しくなってしまいますが、実際の操作はシンプルなので直ぐに慣れると思います。

写真だと分かりづらいですが、透明のキャップには彫刻刀で彫った様なラインが縦に入っており、これも光を反射して輝きます。これもおそらくダイヤモンドカットをイメージしているのではないかと思われます。インナーキャップは無色透明。


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キャップリングはかなり太く、ふんわりと丸みを帯びています。本当にリング(指輪)として使えそうなくらいです。レーザー刻印でVAC700Rの文字。その下に小さくTAIWANとあります。その裏にはTWSBIの文字。ギンギラのリングの上に薄くレーザー刻印されていますので、遠くからだとあまり文字が目立ちません。

欲を言うならキャップリングの文字は実際に彫ってあって墨入れされているものが一番好きですが、値段を考えるとレーザー刻印が妥当でしょう。このリングの裏側の部分にネジ溝が隠れています。


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ニブはJowoの鉄ペンで、可もなく不可もなく。特に不満はありませんが、殊更満足する部分もありません。良く言えば優等生、悪く言えば面白みの無い書き味。私のVACはF字ですが、これがM以上だったりスタブだったりするとまた印象も違ったのかもしれません。


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比べてみる

本ブログの趣旨は、購入の参考になる情報を提供すること。故に、購入時にライバルとなりそうな万年筆と比較しなければなりません。独断と偏見で決めさせていただきましたが、VACのライバルはDIAMONDとカスタム823です。前者はTWSBIのフラッグシップモデルであり、VACにとっては兄弟でありながら自分を日陰に追いやった憎き相手!後者はパイロットの国産バキュームフィラー(プランジャー)!というわけで、VACをDIAMONDやカスタム823と比べていきましょう!

…と思ったのですが、生憎私はDIAMONDもカスタム823も所有しておりません。仕方がないので代役として149とパイロットのカスタムヘリテイジ92に出てきてもらいましょう。

149はサイズが似ているので。また、カスタムヘリテイジ92はバキュームフィラーではありませんが、ピストンフィラーであり価格帯的にはVACと同格。こちらもライバルを名乗るに相応しいでしょう。

この3本を並べると、やはりカスタムヘリテイジ92が少し短く感じられますね。全長は左から14.9cm、14.8cm、13.7cm。

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この画像で最も注目していただきたいのは、VAC700Rとカスタムヘリテイジ92のインク容量です。後者に比べ、前者はかなり大きなインクタンクを持つことが判ります。カタログスペックでは、インク容量はそれぞれ1.2cc、2.2cc、1.2cc。重量は40g、32g、17g。やはりVACが圧倒的。

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ニブもカスタムヘリテイジ92が一番小さいですね。VACは149に次ぐ大きなニブです。左から順に18K、ステンレス、14K。

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実際に書いてみる

では、実際に書いてみます。VAC700RのF字、インクはペリカンの4001 Violett。紙はコクヨのしっかり書けるルーズリーフ。

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前述の通り、書き心地は無難です。ニブは結構大きいサイズではありますが、カチカチでしなることはありません。筆圧をかけても殆ど字幅は変わらず、紙へのコツコツとしたタッチは鉄ペンそのもの。紙への引っ掛かりは少なく、サラサラとした印象。海外の鉄ペンFニブとしては全てに於いて標準的。目立った欠点はありませんが、目立った長所があるわけでもありません。私が「面白みの無い書き味」と表現したのは、こういった点を指してのことです。

しかしこれはあくまでFニブに於いての評価です。これより太い字幅のニブであれば、かなりの高評価となるポテンシャルを秘めていると思います。何故ならば、この万年筆は驚異的なまでのインク供給能力を持つからです。

尾栓を完全に緩めた状態だと、インクタンクが巨大なのも影響してか、ペン芯にドバドバとインクが流れ込んできます。Fニブのインク消費量では過剰なほどのインクが流れ込んできますので、油断しているとインクがボタ落ちします。(それ故に、本来バキュームフィラーは尾栓を緩めてから筆記するものなのですが、私は尾栓を緩めずに筆記することも多々あります)少なくともインク供給が追いつかなくて困ることは無いでしょう。Bニブやスタブなど、インク消費の激しいニブとの相性はバツグンです。(太めの字幅にすれば良かったなぁ…)

また、大きくて少し重めの万年筆ですので、小さい字よりも大きい字を書くのに向いています。そういった面でも、再三になりますが、やっぱり太めの字幅がオススメです。

 

総評

VACのVはバキュームフィラーのVだ!大きいからたっぷりインクが吸えるし、インクを吸うのが面白いぞ!尻軸をくるくる回す生活に飽きたあなたに最適!刺激に満ちた毎日があなたを待っています!大容量のインクタンク、高過ぎるインク供給力!買うなら太めの字幅がオススメ!